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< 参考文献 >

 わたしがふだん参考にしている出版物について、「植物に出会うために」に紹介したもののほか、とくにページをめくる機会が多いものを次に紹介します。

 ■写真図鑑
 ■図鑑
 ■写真図鑑(地域版)
 ■植物誌
 ■その他

写真図鑑 キヌガサソウ

○山渓ハンディシリーズ (山と渓谷社)
 ・野に咲く花 (監修 林弥栄、写真 平野隆久、解説 畔上能力・菱山忠三郎・西田尚道、1989)
 ・山に咲く花 (写真 永田芳男、編・解説 畔上能力、解説 菱山忠三郎・西田尚道、1996)
 ・樹に咲く花 1・2・3 (監修 高橋秀男・勝山輝男、解説 石井秀美・城山四郎ら、写真 茂木透、2000・2001)
 ・日本のスミレ (写真・解説 いがりまさし、1996、増補改訂2004)
 ・高山に咲く花 (解説 清水建美、写真 木原浩、2002)
 ・日本の野菊 (写真・解説 いがりまさし、2007)

 名前のわからない植物があると、わたしがまず開くのがこのシリーズです。掲載されている植物の種類数が多いことや、識別点がクローズアップ写真で紹介されていることなど、名前を調べる上で役に立つ点が多いのが特徴です。また、比較的最近に刊行された図鑑なので、近年の研究成果がとりいれられていることも、日本にどんな植物があるのかを把握する上で参考になります。
 
 野山を歩くときには、「野に咲く花」「山に咲く花」を持って歩けば、目にした草本をほぼ特定することができます。「日本のスミレ」「高山に咲く花」「日本の野菊」はそれぞれ対象とする植物について、日本に分布するものをほぼ網羅しており、また、「樹に咲く花」では植物の種類ごとに割くページが多く、日本の樹木を数多く取りあげるよりも、種類ごとの解説に重きを置くなど、それぞれ特徴があります。
 
 今後は、ユキノシタ科やラン科など、種類数が多く、同定のむずかしい植物にスポットを当てた新刊を期待したいところです。


○山渓カラー名鑑 (山と渓谷社)
 ・日本の野草 (編・解説 林弥栄、解説 畔上能力・菱山忠三郎、1983)
 ・日本の樹木 (編・解説 林弥栄、解説 畔上能力・菱山忠三郎、1985)
 ・日本の高山植物 (編・解説 豊国秀夫、1988)

 野生の植物に興味を持ちはじめたころ、最初に購入したのがこの3冊です。大判のページを開くと、7割がたを写真が占めており、従来の写真図鑑の概念にあてはまらないレイアウトが新鮮でした。掲載されている植物の種類数は、日本の主要な植物をだいたい取りあげているといったところで、北海道や南西諸島の植物は省略ぎみなのが残念なところです。
 
 大きな写真は植物の特徴をよくとらえており、とくに「日本の高山植物」は、最初、尾瀬や高尾山・奥多摩あたりまでしか出かけていなかったわたしが、北アルプスや北海道まで足をのばすきっかけとなった図鑑です。巻末の「高山植物花旅ガイド」は、やや古くなったものの、今でも高山に植物の写真を撮りにいくときには重宝していますし、巻頭に掲載されている「高山植物ノート」「高山の生育環境」は、高山植物の入門書としてとても参考になります。


ヤマケイ情報箱 絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ (監修 矢原徹一、写真 永田芳男、山と渓谷社、2003)

  最近刊行されたばかりの写真図鑑で、日本に分布する主な絶滅危惧植物を取りあげて、種類ごとにそれぞれの分野の第一人者が解説を執筆しています。一部の解説は、ラン科などの研究者として活躍されていた、信州大学の故井上健教授の遺稿となってしまいました。写真については、植物写真家・永田芳男さんが全国各地をめぐって撮影された労作の数々が掲載されています。絶滅危惧植物の中には、その希少性からこれまで写真が紹介されることのなかったものも多く、この本によって初めて一般の目に触れたものもあるそうです。
 
 このような本の刊行については、心ない人たちの採集意欲をかき立ててしまうという意味で、判断がむずかしいところもありますが、日本の植物の現状や保護の必要性を訴えることのメリットの方が大きいと考えて刊行されたものかと思います。

 
カライトソウ
 また、永田芳男さんが執筆された撮影記のコラムが興味深く、めずらしい植物に出会うためには、さまざまな地方の在野の研究家の方々とのネットワークづくりが大切であることが実感されます。


週間朝日百科 植物の世界 (朝日新聞社)

 1994年から1997年にかけて毎週刊行されたムックで、全145巻からなります。この旧シリーズである「世界の植物」の刊行から20年を経て、最新の研究成果を踏まえて新たに刊行されたものです。国内だけでなく、世界中からそれぞれ分野の第一人者が寄稿しているのも、大きな特徴です。
 
 いながらにして世界中の植物を見わたせるのが楽しく、日本に自生する植物には、どのような近縁種が海外に分布するのか知ることもできます。当時は、毎週この冊子を読みながら電車に乗るのが楽しみでした。多くの図鑑では、新エングラー分類により植物が分類されていますが、このシリーズでは、クロンキストの分類により構成されているのが新鮮でした。現在は、各号を合体させた「朝日百科 植物の世界」(全15巻、1997)という写真図鑑となり、セットで発売されています。


○カラー版 野生ラン (橋本保・神田淳・村川博実、家の光協会、1991)

 この本によると、日本には88属242種5亜種33変種のランが分布するといい、その種類数の多さや似たものが多いこともあって、同定が困難な場合もよくあります。この本では日本に分布するほぼ全てのランを1種類につき1ページを割いて、写真と解説で紹介しています。巻末には、日本のランについて概観することのできる「知っておきたい野生ランの基礎知識」が掲載されています。
 
 写真は野生ランを専門とする植物写真家・神田淳さんの手によるもので、神田淳さんはほかに「日本の野生ラン」(小学館、1984)という写真図鑑も出されているのですが、学生・生徒向けとは思えない充実した内容となっています。残念ながら、いずれも現在は絶版となっており、再販が望まれるところです。
 
 日本のラン科植物だけを取りあげた図鑑としては、他にくわしい解説と精細な植物画が特徴の「原色 日本のラン」(前川文夫、誠文堂新光社、1971)という大著があるのですが、やはり絶版となっており、こちらは古書店で10万円近い価格がつくほどで、入手はきわめて困難です。


○ヤマケイ情報箱 田んぼの生き物図鑑 (内山りゅう、山と渓谷社、2005)

 生物の分野ごとにまとめられた従来の図鑑と異なり、「田んぼ」というフィールドに着目して、「田んぼの1年」「図鑑部」(両生爬虫類、魚、昆虫、植物など)の2部で構成された画期的な図鑑です。植物についても、コオニタビラコオモダカヒガンバナといった、田んぼといえばすぐに思い浮かぶ名前が数多く掲載されています。
 
 内山さんは写真家の桜井淳史さんに師事され、淡水魚をはじめとした水生動物を主に撮影されてきましたが、近年は特定の生物群よりも、環境そのものに興味が移ってきたとのこと、その熱意が伝わってくる一冊だと思います。
コオニタビラコ
図鑑

日本の野生植物 草本1・2・3、木本1・2
 (編 佐竹義輔ほか、平凡社、1981・1982、1989)

 現在、一般に入手可能な日本語の図鑑のなかで、もっとも多くの種類の植物が掲載されているのがこのシリーズです。わたしの場合、植物の名前を調べるときに「野に咲く花」「山に咲く花」の次に開くのがこの図鑑です。撮影年月日・場所も掲載されており、掲載写真が古くなってしまったことや、その後の研究により新しい学名が一般的になったものがあることを割りびいても、手もとに置くだけの価値はあります。1冊あたり2万円近くするので、全巻そろえるのはなかなか大変ですが、わたしは古書店でまとめて安く購入することができました。
 
 このほかに卓上版の辞書くらいのサイズになったハンディ版があり、こちらは解説が省略されていますが、属ごとの検索表が野外で植物を同定するときに活躍します。


日本の帰化植物 (編 清水建美、平凡社、2003)

 「日本の野生植物」の完結後、最近になって新たに刊行された図鑑で、その姉妹編といえます。「日本の野生植物」の発刊後も、さらに多くの帰化植物が確認されていますが、この図鑑ではできるだけ多くの帰化植物がとりあげられ、くわしい解説に写真が添えられています。「日本の野生植物」では、解説と写真が交互に掲載されていて、やや参照しにくかったのですが、この図鑑では写真は前の方にまとめて掲載されるようになり、読みやすくなりました。また、巻頭には帰化植物とはどのようなものか、くわしい解説が載っていて参考になります。
 
 帰化植物は名前を調べる上でも本当にやっかい者で、この図鑑の刊行の際には、写真についてもかなり精査されたと思うのですが、それでも十分におさえきれなかったものもあるらしく、いずれは増補改訂版が必要となりそうです。


新日本植物誌 顕花編 (大井次三郎、改訂 北川政夫、至文堂、1983)

 日本の植物図鑑のバイブルの一つで、写真こそ掲載されていませんが、草本・木本を問わず、日本に分布する植物を網羅的に取りあげているため、情報の少ない植物を調べようとしたときには必ず開く本の一つとなっています。これだけのボリュームの図鑑が一人の研究者によって執筆されたことにも圧倒されます。
 
 旧版の刊行は1953年と古い上、改訂版である「新日本植物誌」も残念ながら絶版となっており、最近では古書店に出回ることも少なくなっています。幸い、国立国会図書館では開架式の閲覧コーナーに置かれているので、必要なときに調べることができるほか、わたしの場合、アザミ属、スミレ科、トリカブト属などについてはコピーをとって活用しています。


原色日本のスミレ (浜栄助、誠文堂新光社、1975)

 スミレの研究に生涯を尽くされた浜栄助さんの労作で、日本に分布するほぼすべてのスミレが掲載されています。スミレの形態や分布について、もっともくわしく解説している図鑑で、標本の採集地なども掲載され、ていねいに描かれた植物画とあわせ、ページをめくっているだけでも楽しい図鑑です。種間雑種も多く取りあげられており、これだけ多くの雑種を実見できたということは、どれほどの時間を費やして著者がスミレを観察されたのか、想像もつかないほどです。
 
 長く絶版となっており、わたしも図書館でしか利用できませんでしたが、2002年に増補版が刊行されたのを機にようやく購入することができました。浜栄助さんには「日本のすみれ」(誠文堂新光社、1987)という写真集もあり、オオバキスミレの白花品やアカバナスミレなどの貴重な写真が掲載されています。
イワフネタチツボスミレ
写真図鑑(地域版)

○北海道山の花図鑑 (梅沢俊、北海道新聞社)
 ・アポイ岳・様似山道・ピンネシリ (1995)
 ・大雪山 (1996)
 ・礼文島・利尻島 (1997)
 ・夕張山地・日高山脈 (2004)

 北海道在住の植物写真家・梅沢俊さんによる山の花図鑑のシリーズです。北海道の花の名山ごとに、その山域に分布する植物のほとんどを取りあげています。また、登山コースとそこで見ることのできる植物も解説しており、植物好きな人がこれらの山に登るときは、この一冊があれば十分です。
 
 北海道の植物は、一般的な図鑑では道内の分布域などについての情報が少なく、同定には、山域ごとに植物をピックアップしたこれらの図鑑が大いに役に立ちます。いずれも、花の色ごとに分類されているため、他の図鑑になれた者にとっては、かえって調べにくくなってしまっていますが、さまざまな人たちに利用していただくための手だてとしては、当然のことかも知れません。
 
 北海道の花の名山でも、知床や増毛山地などいまだ取りあげられていない山域もあり、新刊が期待されるところです。


信州 高山高原の花 (今井建樹、信濃毎日新聞社、1992)

 長野県は、高山や高原を中心として、植物の種類が豊富な地域の一つです。この本には長野県内の高山や高原の植物が掲載されており、北アルプスや南アルプスのように県境にある山域については、県内・県外にあまりこだわらず、山域ごと取りあげてくれているのがありがたいところです。
 
 また、ごく一部の地域だけに分布する地方変種や、花色の変異なども多く掲載されているのも参考になり、中にはウバウルシやヘラハタザオなど、この図鑑にしか写真が掲載されていない植物もあります。


植物誌

神奈川県植物誌 (編 神奈川県植物調査会、神奈川県立生命の星・地球博物館、2018)

 ほとんどの都道府県では、その地域内に分布する植物についてとりまとめた植物誌を刊行しています。おそらくは予算面の制約もあって、とりまとめられてからかなり年月がたってしまったままの植物誌もありますが、わたしが住む神奈川県の場合、1958年、1988年、2001年、そして2018年と4回にわたって植物誌が刊行され、最新の調査結果を踏まえた、神奈川県内の植物に関する情報が盛りこまれています。改訂のたびに帰化種が増える一方で、県内で自生が確認されている植物は減少傾向にあるのが残念なところです。
 
 この植物誌は、わたしが県内の植物を観察する上での基礎資料となっており、神奈川県立生命の星・地球博物館で購入可能なほか、県内の各公立図書館でも閲覧可能なのがうれしいところです。


○長野県植物誌(清水建美、信濃毎日新聞社、1997)

 長野県植物誌の場合も、刊行されたのが新しく、アザミ属やトリカブト属をはじめとして、最新の研究成果を踏まえた分類体系に基づいて掲載されています。
 
 植物誌の場合、学術利用が主な目的なので、希少種を除き、標本の採集地が掲載されており、植物観察に出かける上でも大いに参考になります。また、同定に当たっては、まだ分布が知られていない種もある可能性があるとはいえ、県内に分布する種を確認することで、候補となる種をしぼれるのもありがたいところです。
その他 キソアザミ

○図説 植物用語事典 (清水建美、八坂書房、2001)

 植物を観察したり、名前を調べたりするには、図鑑の解説に用いられている植物の専門用語を正しく理解しておく必要があります。ところが、これらの用語は一般にはなじみのないものが多いにもかかわらず、図鑑には簡単な図があるくらいで、十分な説明はないのが実情です。わたし自身も、うろ覚えのものもあって自信がありません。そんなときに役に立つのが「図説 植物用語事典」です。
 
 この事典では、植物の各器官、植物群、習性、生殖などに関する用語を、文章と写真や図でわかりやすく解説しており、図鑑を読むときにかたわらに置いておけば、意味のわからない用語をすぐに調べることができます。また、各用語には英訳がついているので、英語の論文を読むときにも役に立つと思います。


○植物研究雑誌 (編 津村研究所、1916〜)

 一般に、植物に関する研究成果が発表されて研究者間で受け入れられ、書籍に反映されるようになるまでには、5年なり10年なりかかるのではないかと思います。これでは、わたしたちはなかなか植物に関する最新の知見を得ることができませんが、最新の研究成果を入手する方法として、研究者が論文発表している学術誌に当たるというものがあります。
 
 学術誌というと取っつきにくい印象がありますが、かつて牧野富太郎が主宰したという「植物研究雑誌」の場合、多くは日本語で論文が掲載されており、抵抗なく読むことができます。国立国会図書館にはもちろん蔵書されていますが、大学の理学部や農学部、教育学部などの図書館にも置いてあると思います。