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わたしが長く暮らした多摩地方の平野部はランが少ないエリアで、目につくのは雑木林を好むキンラン、ギンラン、シュンランくらいでした。高山や尾瀬に足を向けるようになってランの観察機会はぐっと増えましたが、明るい草地に生えるランについては、関東南部ではこのような環境が真っ先に開発されてしまったこともあって、ぽっかりと抜けたままでした。 そんなわたしが一昨年来、九州で植物観察をするようになってびっくりしたのは、この地方各地における草地の多さ、広大さでした。くじゅうや阿蘇では斜面一面が草原で覆われた山々が連なりますし、傾斜地の多い長崎県ですら、諫早などの大村湾周辺、五島、平戸などにまとまった草原があります。 こうした環境では野焼き、採草などの管理が行われ、牧草や萱葺き用として利用されてきたことから、ササや木本で覆われることもなく明るい環境が維持され、阿蘇ではヒメノボタン、シバハギ、オオトモエソウといった植物のほか、ダイサギソウやムカゴソウのように草地を好むランなど、数こそ少なくなっているものの、多くの貴重な種類を観察できます。 ダイサギソウは、花の形がサギソウほどはサギっぽくなくて地味、との声もありますが、初めて実見するダイサギソウは、サギソウとちがって花序にたくさんの純白の花がならび、まるで白鷺が群れ飛ぶようで、自生のランとしては豪華な印象を強く受けました。 (2019.9.8 熊本県阿蘇) ○野生植物写真館「ダイサギソウ」へ ○「表紙によせて」バックナンバー |