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表紙によせて

 ホウオウシャジンは、南アルプス北部の鳳凰三山にしかないにもかかわらず、たいていの高山植物図鑑に掲載されているだけあって、花つきのよさといい、岩場という生育環境といい、キキョウ科でもとりわけ高山植物らしいものの1つです。「鳳凰」という尊貴な名前もまた、その魅力を引き立てているように思えます。
 
 南アルプスは何度も出かけているものの、鳳凰三山については、特徴ある白いオベリスクをまわりの山や甲府盆地から仰ぎみるばかりで、なかなか足を向ける機会がありませんでした。近くの北岳にはない、紅紫色のタカネビランジと一緒に見ようと、この年にようやく思い立って出かけることにしました。
 
 夜叉神峠登山口からはじまる針葉樹林下の単調な登山道を過ぎ、森林限界を越えて稜線に立つと、突然、巨大な花崗岩の岩場と、それが崩壊してできた砂礫が敷きつめられた登山道が現れました。やや終わりかけのタカネビランジを見ながら進んでいくと、ようやく現れたホウオウシャジンは、ガスにかすむ花崗岩の岩かげで、青紫色の花を風にゆらせていました。
 
 10年来の宿題となっていたホウオウシャジンとの出会いは、ひさしぶりにテントを担いでの撮影行となり、コースタイムで16時間に及ぶ長い歩行距離に四苦八苦したこととあわせて、思い出に残るものとなりました。

       (2006.9.9 山梨県鳳凰三山)

○野生植物図鑑「ホウオウシャジン」
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