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表紙によせて

 スミレは本来、草原のような明るい環境を好みますが、その延長として海岸の草地や砂地に適応しながら、太平洋側で生育環境を広げたのがアツバスミレです。「原色日本のスミレ」の分布域図によると、千葉県の房総半島から九州南部まで点々と知られていて、さまざまな花色や葉のものがみられる伊豆七島をはじめ、どちらかというと暖地が主な分布域なのでしょう。

 分布の北限に近い神奈川県では、もともと個体数は少なかったようで、おまけに開発による環境悪化や盗掘にまでさらされた結果、栽培品の逸出とされるニショクアツバスミレが内陸部で増える一方、自生のアツバスミレは数を減らしています。城ヶ島や江ノ島に記録があるものの、これまでの観察では両島ともアツバスミレは見当たらず、この春は、以前目にしている伊豆半島を再訪しようかと考えていました。

 その一方で、三浦半島は都内からアプローチしやすく、開発が進んでいるものの、複雑な海岸地形のおかげで自然環境が残された場所もあることから、思い直して、まずはこうしたところをめぐってみようと数か所訪ねたところ、運よくアツバスミレの小群落が見つかりました。近くに人家はなく、往来もないところなので、逸出の可能性もなさそうです。ここのアツバスミレはどういうわけか、花弁は先端の色が薄く、中心部は濃くて、ミョウジンスミレを連想するものばかりでした。
       (2021.3.28 神奈川県三浦半島)

○野生植物写真館「アツバスミレ」
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