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表紙によせて

 日本では種レベルで50を超えるスミレが知られており、その種類や数の多い環境では、いわゆる「種間雑種」が現れることがあります。あるスミレの花粉が別の種のスミレの雌しべの柱頭についたとしても、ふつうは、花粉からのびた花粉管が子房までたどりつかなかったり、受精しなかったりして種子はできません。

 ところが親どうしが近縁であるなど、組み合わせによってはまれに種子ができることがあります。運よく大きく育つまでに至れば、両親の特徴を兼ねそなえた花を咲かせる場合があり、種子ができなくとも地下茎をのばして増えることさえあります。「原色日本のスミレ」(誠文堂新光社)によると、こうして生まれた雑種が40以上報告されています。

 ナガバノアケボノスミレはアケボノスミレナガバノスミレサイシンの種間雑種で、花はアケボノスミレに似て紅紫色のものが多いようです。一方で、花を咲かせるころにはすでに葉が広がっていることや、アケボノスミレよりも葉が長いところはナガバノスミレサイシンの影響がみられます。どちらも本州から四国、九州にかけての太平洋側を主な分布域とし、低山に生えることから、両種が近くにあったりすると、ナガバノアケボノスミレが出現することもあるのでしょう。

          (2014.4.16 東京都高尾山)

○野生植物写真館「ナガバノアケボノスミレ」
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