Home > 表紙によせて > 表紙によせて(2018.11〜2019.1) |
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植物写真を撮るようになって30年近く過ぎましたが、初めての撮影地、未見の植物を訪ねるときは、今でも期待と緊張感や不安がない交ぜになります。長崎に転居してからは、九州が主な探索エリアとなりましたが、鹿児島県は離島を含めても、訪問回数は公私あわせて6回しかなく、土地勘がないこともあって、雑誌の情報や地形図とにらめっこしながら、撮影の準備を進めることになりました。 なかでも、いちどは見てみたいと願っていたのがハナカズラです。「山渓カラー名鑑 日本の高山植物」(山と渓谷社)に掲載されている、色鮮やかなトリカブトの数々を目にして以来、トリカブトを求めて全国各地をめぐりましたが、九州に固有のハナカズラは縁遠く、あこがれの存在であり続けました。日本では唯一のつる性のトリカブトで、大陸と共通し、国内では九州の数県でわずかに知られます。 昨年は別の植物観察を優先させて先延ばしになったうえ、秋は行事などで週末に予定が入りやすく、今回も想定したベストタイミングよりも1週間遅れての現地訪問となりました。山中を進むにつれて、ぽつぽつと終わりかけのハナカズラの花が現れだし、不安になりつつも足を進めましたが、刈り払われた針葉樹の林床で、朝日を受けた満開のハナカズラが目に入ると、自然のデコレーションのようなたたずまいはもちろんのこと、安堵と達成感のせいか、流れる汗をぬぐうこともなく、しばらく花を眺めつつたたずんでしまいました。 (2018.10.21 鹿児島県) ○野生植物写真館「ハナカズラ」へ ○「表紙によせて」バックナンバー |