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私が小学校に入学する前、両親は武蔵野台地を流れる玉川上水の近くに居をさだめ、都内のマンションから多摩地方に移り住みました。そのときに花の好きな母が新居に植えたいと望んだ花木がコブシでした。ところがせまい庭のこと、高さが10mにもなるコブシはあまりにも大きすぎ、結局、庭の真ん中に植えることになったのがシデコブシ(ヒメコブシ)でした。 そのシデコブシはうまく根づき、春先には花を咲かせるようになりました。毎年春が近づくと、母は少しずつふくらんでいくシデコブシのつぼみを見つめ、花が咲くのをいつも楽しみにしていましたが、どうやらこのつぼみは野鳥の好物らしく、花が開くまえにほとんどついばまれてしまうこともしばしばでした。なんとかつぼみを守ろうと、母は私にネットをかけるように頼んだほどでしたが、それでもシデコブシは毎年少しずつ花の数を増やしていきました。 その母も今では故人となってしまいましたが、植えたときには当時の私の背丈ほどだったシデコブシは2階まで枝を広げ、春の彼岸のころになると、この花が好きだった母への献花のように枝いっぱいに薄紅色の花をつけています。 (2003.3.30 愛知県田原町) ○野生植物図鑑「シデコブシ」へ ○「表紙によせて」バックナンバー |